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「卵」 著:三島由紀夫 【本の街だよ読書して!】

nem16.88xem (8) 416 11 2

 

「言葉にしなきゃ伝わらないよ。」

と。

 

こんなことを人はよく言う。

 

これが正しいかどうかは、その発言の裏にある意味により決まる。

 

「言葉にすれば確実に伝わるよ。」

という意味で言っているなら誤りだ。

 

世の中の大半は誤った意味で使っていると思う。

 

何かを言葉で表したところで、その何かと言葉は等価ではない。

 

先述の誤りは、自分と他人の間で生じる認識の差異にフォーカスしているが、自分の中でさえ「心の声自体」と「それを表す言葉」は異質なものである。

 

 

とはいえ、「言葉」を使わないわけにはいかない。

 

人は生きていく中で必要に応じて日々他人とやり取りをせざるを得ないし、また、そういった物理的な必要性を抜きにして、そもそも人間は「他人とのやり取りが存在しない状態」というのに耐えられるようにできていないのだろう。

 

故に、我々は今日においてもこの「言葉」という厄介で不便な代物を物置にしまうことができずに、未だに用いている次第なのだ。

 

どうせ使わざるを得ないのなら、デタラメな言葉よりは正しい言葉を使った方が良い。

 

言葉は信頼してはならない。

だからこそ、雑音を余計に増やさないためにその型を護る必要がある。

 

 

 

三島の日本語は綺麗である。

 

一方、かつて三島と対談した天下の東大生というお猿さんの群れが使うソレは汚かったのだろう。

 

 

さて、そんな三島の「卵」という短編だが、珍しく徹頭徹尾、荒唐無稽な作品であり、そこがとても面白い。

 

以下がその内容である。

 

---

 

主人公は五人の大柄な無頼漢達。

 

名を、偸吉、邪太郎、妄介、殺雄、そして飲五郎という。

それぞれ、盗み、色欲、嘘、乱暴、酒乱の権化である。

 

彼らは学生という身分でありながら、大学にはちっとも顔を出さない。

 

下宿先にて一部屋で揃って、部活の強化合宿の延長線上にあるような、陽気で豪胆かつ野蛮で怠惰な生活を勤勉に送っていた。

 

そんな彼らが、日々欠かさず行っているある儀式がある。

 

朝飯時

「い゛た゛た゛き゛ま゛す゛!」

という、街の隅々まで響き渡るほどの唸り声と強烈な破裂音を一斉にあげ、破裂させた「生卵」をすぐさま飲み干すというものだ。

 

それが終わると、並んでいるものの一切を遠慮なく平らげ、大層勤勉な生活へと移る。

 

そんなある日、五人は所属するボート部の先輩の家に邪魔していた。

 

象の胡麻和え、目高の刺身、猫の唐揚げに麒麟の頸部の甘露煮、そんな珍味を引っ掛け、湯水のように酒を身に注ぐ。

壮大で矮小なボート部応援歌を歌えば、それにゲップでレスポンス。

 

そんなケッタイな酒池肉林の宴が終わっても一同の酔いは醒めず、帰りも横並びで肩を組み、大笑いで道を占拠し進む。

 

おそらく、この先はいつもの道に繋がっているだろう。

終電は過ぎたが、タクシーさえ拾えればいい。

金はないが、運転手を脅せば安く済むだろう。

 

なんとかなる。

 

...。

 

ここはどこだろう?

見知らぬ小径だ。

 

肩を組める幅もないような小径に五人は迷い込む。

 

更に暫く進むと、無数の呼笛が足音と共に前後から彼らに迫ってくる。

どうやら<警官>のようである。

 

下宿へ帰る途中だ。

「君らを逮捕する」

 

何も悪いことはしていない。

「君らを逮捕する」

 

納得がいかない五人は、この<警官>達相手に乱闘を繰り広げるが、元々多勢に無勢、更に、不安なことに<何やらぬるりとしたもの>が地面に広がっており、足を滑らせたところをたちまち一網打尽、あえなく御用となり、連行される。

 

連行中、道端の街灯の明かりが<警官>たちの顔を照らすと、なんとどいつもこいつも「顔がない」ではないか。

 

何度見直しても、どの警官を見ても、目も鼻もなく、その頭部は硬くて霞んだ、白い楕円形のもの、つまり「卵」なのである。

 

かくして、彼らは道の果てにある何やら球場のような、しかしどこか違和感のある建物へと連れて来られた。

建物の側面からは一本、「角」のような謎の突起が伸びている。

 

どうやら、そこで裁判を行うらしい。

 

傍聴席にはカチカチとやかましい卵卵卵。

 

裁判長も卵。

書記も検事も弁護人も卵である。

 

検事卵曰く

 

「五人の被告人は、日々卵の神聖を冒涜し、破壊し食しておりました。

また、それのみならず、その都度い゛た゛た゛き゛ま゛す゛という大声を発する事により卵食の普及活動にも勤しんでいたと思われます。

卵が食用に供される汚辱の歴史は永いですが、未だかつてここまで酷いものはございません。

 

よって、死刑を求刑致します。」

 

不味そうな弁護人卵曰く

「検事はそう言われるが、卵の殻は被告の皮膚より固いのだから、弱肉強食というより強者への反抗と言われた方が適切かと。」

 

検事卵「固さは脆さであります!

我々は固い。しかし被告らは思想において我々を超越している。

思想というのは多少に関わらず暴力的性質を帯びるものであり〜

 

弁護人卵「しかし、被告らはボート部の部員であり、脳筋な彼らが思想を抱いているとは通念上考えづらいのではないか。

腕力と言われた方が良いと思われる。」

 

検事卵「腕力こそが最初の思想である。

もし、腕力が最初に卵の殻を割らなかったら誰が卵が食えるという思想を発明できたでありましょう。

よって、彼らの腕力は危険な思想的行動だと見做さざるを得ない。

というよりも、むしろ彼らは卵は食うのに適しているという思想から腕力を振るったのであります。

 

以上より

 

偸吉には卵焼き刑

邪太郎には炒り卵刑

妄介には茹で卵刑

殺雄には目玉焼き刑

飲五郎には卵酒刑

 

を求刑致します。」

 

傍聴卵「カチカチカチカチカチカチ!!!」

 

 

弁護人卵「そう申しますが、如何にして人間を卵的に処刑されられるのでしょうか?

具体的方法とは?

人間のタンパク質には、卵焼きになるべき卵的成分が含まれているのか?」

 

検事卵「我々を毎日一つずつ呑んでいるのだから焼けば卵焼きになるのは科学的にも明らかである。」

 

弁護人卵「ならば、人の体内で分解された卵が再び卵になる可能性を認めるのか?」

 

検事卵「当然である。よって卵的な方法による処刑は化学的に可能だ。」

 

弁護人卵「それなら、その処刑とは、再構成された卵を我々自身で虐殺し、再度人間用の卵料理を作る工程に過ぎないので矛盾であろう。

死刑にするよりも被告のうちから卵を蘇生させ、被害卵の遺族に福音をもたらすべきではないのか?」

 

 

検事卵「暴論である!

報復以外に選択肢はないのだ!

 

絶対に卵焼きだ!炒り卵だ!」

 

 

 

五被告「な ん な ん だ こ れ は . . .」

 

 

 

ちょうど五人の酔いも醒めてきた。

ふと、妄介が足を鳴らしてみると、床が鉄で出来ていることに気付き、他の皆に知らせた。

 

妄介は<嘘付き>であり、彼の言うことは普段から誰も信じない。

案の定、これもまた嘘だと思われ相手にされなかったので、彼はそれを<本当のこと>だと説得するべく躍起になり、周りを見渡した。

 

建物から突き出た不自然な「角」、これに目が入ったことで天啓を得る。

 

「おい、見ろよ!この建物はたしかにフライパンだぜ。」

 

しかし、やはり皆信じない。

 

裁判長卵「弁護人卵は卵道徳を逸脱し、人道主義的誤謬を犯している。

よって、検事の求刑通り、五被告に対し死刑判決を下す。

執行は、卵刑訴第八十二条により即刻これを行う。」

 

カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ!!

 

傍聴卵は歓喜で殻を打ち鳴らし、警官たちが五人の元に近づいてくる。

 

妄介は、確信のもと他の皆についてくるよう合図した。

やむなく皆その<嘘>を信頼し、五人揃って「角」つまり「持ち手」へと駆け上りぶら下がれば、フライパンは大柄な五人組の体重に耐えられず、轟音を立てひっくり返る。

 

数多の卵たちは粉々に砕け散り、混ざり合い、そこには溶き卵の巨大な池が出来上がった。

 

そこに偶然、空の油槽車が通過したので、五人はこれ幸いとタンクいっぱいに卵液を詰め込み下宿先まで運んでもらった。

 

それからというもの、彼らの毎朝、座布団大の卵焼きを平らげ続けることになった。

 

儀式から破裂音がなくなった事は、近隣住民にとっては幸運であったが、当の本人たちは楽しみが一つ減って少々寂しいようである。

 

 

「一度きにあれだけ割ればそれも仕方ないさ、」

 

 

---

 

さて、このような話なのだが、作者曰く、卵は窮極のナンセンス、純粋な馬鹿らしさを示したものだそうだ。

 

その上で、本人による解説には「真面目な分析」が現れる事を予期していた旨も記されている。

 

卵は、学生運動を裁く権力による横暴の風刺である。

とか(本人はお利口さんな頭でっかちからこう来ると予測していたようだ)。

 

あるいは逆でもいい。

 

作中の卵たち、及び卵という作品全体の荒唐無稽さは過激派のメタファーである。

とか。

 

言葉は何かと確実に対応しているのだという、「言葉に対する全幅の信頼」というか、そのような信念があるからこそ字面に沿った穿った深読みというのも生まれるものである。

 

 

ところで深読みと言えば、妄介は<嘘付き>と紹介されているが、実のところ、作中において彼は<客観的事実>しか<述べて>いない。

 

「お日様もお月様も東からのぼる。」

「歳をとったおじいさんを見た。」

「ひよこは卵から生まれる。」

 

これらは皆に嘘だと思われている。

 

 

では、妄介は「まとも」なのか?

 

どうも引っかかる。

私にはそうは思えない。

 

つまり、彼の<言動>は字面上<正しい>が、彼は「言葉を信頼してしまっている」から<嘘付き>なのではないか?

 

と私は読んでしまった。

 

先に挙げた東大生のうち、誰かが三島に「労働者」といった時、それは決して「現実の労働者」を指しているわけではないし、また「階級闘争」という時は現実がどうであれそれは彼のうちに確かに「存在する」。

 

別に、階級闘争でなくとも「神の見えざる手」でもいい。

 

そんなものは「現実」には「無い」。

 

そう呼ばれる現象が見られるが、それがあるわけではない。

 

なのにそれをあると言うのなら、やはり妄介が<嘘付き>だというのは妥当な評価だろう。

 

 

尤も、これもまた三島の掌の上で踊っているだけなのかもしれないが。

 

 

 

ロジカルシンキングとやらを武器に闘うことを推す昨今、言葉の不完全性が覆い隠され過ぎている。

 

例えば、心理学者が「非言語的コミュニケーション」とか言う時も、結局は、表情や身振り手振りなどといった刺激を単体、あるいは言語との複合刺激として捉え、言語化して定義付けているだろう。

 

 

「ここまで三千と七百字あまり書いてきて何をいってるんだコイツは...」

 

と捉えられるかもしれないのでいい加減まとめる事にする。

 

 

言葉にならない領域というのは世界にごまんとある。

だからこそ、言葉の危うさ、脆さ、繊細さに気付ける。

だからこそ、正しく使おう。

 

 

 

https://www.amazon.co.jp/花ざかりの森・憂国―自選短編集-新潮文庫-三島-由紀夫/dp/4101050023

 

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Comments from NEMber
物愚者
2019-01-26 09:38:08ID:34821

>>姉崎あきか::さん

ふざけず素直に言葉を使って言葉の共約は不可能であるというふざけたことを書きました。

姉崎あきか
2019-01-26 03:46:30ID:34726

イベント終了後のコメントになってしまって申し訳ないです;;
リピート参加、ありがとうございます♪

物愚者さんがよくおっしゃっている、言葉を信じることの傲慢さ、みたいなものには、私もすごく共感しています。とくに文芸は、言葉を使う以上、言葉がさっぱり何も示していないことに敏感でないといけないですよね。
「その何かと言葉は等価ではない」……おっしゃる通りだと思います(*^-^*)

卵、未読でしたが、めっちゃ変なお話ですね( *´艸`) これはたしかに、暗喩的ななんらかの意味を読みこんでも、路頭に迷うだけかも(笑)。
妄介のセリフの分析、見事です。鋭い指摘!

ご主張に完全に共感できる記事でした。
……でも、アイロニーなトリッキーな物愚者さんにしては、ストレートな物言いに感じます。もしかして私が気づかなかった裏があるのかな?(笑)

この記事にもリンクをはらせていただきました♪

物愚者
2019-01-19 21:26:24ID:28356

>>えっさん&小梅ちゃん@自称nemlogコメンテーター::さん

人を焼き土下座させたら捕まりますよね。
なら卵を熱い飯に掛けても捕まるはずです。

物愚者
2019-01-19 21:22:32ID:28342

>>きなこ::さん

極刑不可避ですねぇ...

物愚者
2019-01-19 21:21:58ID:28339

>>7zoesan::さん

恋、ですかね。()

物愚者
2019-01-19 21:21:29ID:28336

>>えっさん&小梅ちゃん@自称nemlogコメンテーター::さん

あ、もしもし警察ですか?

きなこ
2019-01-19 21:13:05ID:28324

よーし、今日もたまご8個食べるぞ☝

7zoesan
2019-01-19 21:10:57ID:28321

引き込まれた・・・なんなんだこの感覚は・・・

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