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【読書】森見登美彦『新釈 走れメロス』

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あらすじ

 

芽野史郎は激怒した。必ずかの邪智暴虐の長官を凹ませねばならぬと決意した。芽野はいわゆる阿呆学生である。汚い下宿で惰眠をむさぼり、落第を重ねて暮らしてきた。しかし厄介なことに、邪悪に対しては人一倍敏感であった。

 

「詭弁論部」に所属する芽野は、部を廃部に追い込む図書館警察長官に怒り直談判をしに行く。人を信じられないと言う長官に芽野は歯向かうが、長官は部を救いたければ学園祭の舞台でブリーフ一丁で踊れと無茶苦茶な条件を突き出した。芽野はそれが部のためならと条件を呑むが、姉の結婚式があるのでどうしても一日だけ猶予が欲しいと言う。人質として友人の芹名を置くので一日だけ解放して欲しいと頼んだのだ。その姿を見た長官は心の内で芽野なら真の友情を見せてくれるのではと期待する。
芹名と引き換えに芽野を解放した長官だったが、そんな彼に芹名は言った。

 

「あいつは戻らんぜ」

 

芹名の話によると芽野にはそもそも姉などいないらしい。彼には友情も信頼も愛もないのだ。しかし芹名はそんな芽野だから自分と親友をやれていると言う。なんとも不思議な関係に理解が追いつかない長官は、逃げた芽野に怒りを爆発し追っ手を送り込んだのだった……。

 


感想

『新釈 走れメロス』は有名文学作品を森見登美彦さんが京都を舞台にユーモア溢れる文体で描きなおした作品です。
中島敦「山月記」、芥川龍之介「藪の中」、太宰治「走れメロス」、坂口安吾「桜の森の満開の下」、森鴎外「百物語」を現代に新たに蘇らせた大変面白い作品になっています。

 

森見登美彦さんと言えば『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話大系』『有頂天家族』などが代表作に挙げられますね。『ペンギン・ハイウェイ』が劇場アニメとして公開されたことも記憶に新しいです。

 

森見作品はどれもとても楽しく読めて、個人的に現代作家の中ではトップを争うほど好きな作家なのですが、そんな彼の作品の中でも最も好きなのがこの『新釈 走れメロス』です。

先述したように文豪の名作を森見テイストで書き直した作品なのですが、なんと言っても非常に完成度が高い。
その理由を以下に二点ほど述べさせていただきます。

 

1. 高度なストーリー構成

まず驚くべきはそのストーリー構成です。この作品は元になった作品を読んでいなくても充分楽しめる内容になっているのですが、原作を読んでいたらそのストーリー構成の完成度に驚くと思います。

 

「山月記」

中島敦の「山月記」は高校の教科書で読んだ方も多いと思いますが、友人が虎になるという中々ぶっ飛んだ話でした。
『新釈 走れメロス』では虎ではなく鞍馬天狗になってしまうのですが、現代の京都という舞台設定でありながらそのぶっ飛び展開を違和感なく描き、且つ原作のようにどこか寂しさを感じさせるラストに繋げているのは見事です。

 

「藪の中」

芥川龍之介は「羅生門」に代表されるように、少しミステリアスな雰囲気の作品を描くことで有名です。
「藪の中」も例外ではなく、殺人事件を巡って関係者から無関係の者、殺された本人にまでその事件について話を聞きますが、その話が食い違っており真実は誰もわからないという話でした。


「新釈 走れメロス」でも同じ構成で自主制作映画を作成したある学生たちの三角関係を描くのですが、学生たちの話の食い違い方、周囲の人間の反応は「藪の中」そのものでありながら、殺人事件という殺伐なものとしてではなく、学生の切ない三角関係に落とし込む構成力は見事ですね。

 

また、この作品で特に感動したのが、「藪の中」だけでなく「地獄変」も同時に描いているということ。
作中の三角関係では自主制作映画の監督と主役、ヒロインの三角関係にとなっているのですが、監督は元彼女を撮影することに関して次のようなことを述べていました。

 

僕の身のうちでは嫉妬の炎がごうごう燃えて、彼女はその照り返しを受けている。だからいっそう美しのだ。

 

「地獄変」とは芸術のため画家の男が娘を車に乗せ燃やし、その娘の悲痛な様を絵に収めたという話でしたが、この炎を嫉妬に変換しその炎に照らされる彼女を映画という作品に収める姿は「地獄変」が想起されないでしょうか。
このことに気付いた時思わず声に出てしまいました。「藪の中」という作品をオマージュするだけではなくそこに他作品の要素も同時に取り込む技術は凄すぎです。

 

「走れメロス」

元の話はメロスが友情のため約束を必死に果たし、人を信じられなかった王も心打たれ改心する、といった中学の教科書にも載っているような道徳的で良いお話なのです。しかし、「新釈 走れメロス」の芽野(メロス)はそもそもダメ大学生です。更には自分が逃げるために友人をあっさり差し出し約束なんか御構い無しで全力で逃げます。必ず戻ると言った芽野を見て信じられるかも…と思った長官(王)もびっくりです。

 

「おまえは友情というものを何だと思っているのだ。これまで一緒に世間から石を投げられつつ、詭弁をもてあそんできた我らに迷惑をかけて、それでおまえは平気なのか!」
「そんなものが友情か!」芽野はふいに怒号した。
「自分が可愛いだけじゃねえか。本当の友人ならば俺の生きざまを黙って御覧じろ!」
「詭弁も大概にしろ!」
「てめえはそれでも詭弁論部か!」

 

しかしこれが良くできているのは、結果的にちゃんと「走れメロス」のストーリーを辿ってるということ。
激怒した長官は芽野を手下に追わせますが、そこから逃げる芽野の必死な姿はまさに友のために駆けるメロスそのもの。それもそのはずで、芽野はメロスと全く反対のことをしていますが、それが彼にとっての友情でもあるのです。

 

「あるのだ。そういう友情もあるのだ。型にはめられた友情ばかりではないのだ。声高に美しき友情を賞賛して甘ったるく助け合い、相擁しているばかりが友情ではない。そんな恥ずかしい友情は願い下げだ!俺たちの友情はそんなものではない。俺たちの築き上げてきた繊細微妙な関係を、ありふれた型にはめられてたまるものか。クッキーを焼くのとはわけがちがうのだ!」

 

やっていることも言ってることも無茶苦茶なのですが、彼なりに信念を持って走る姿はまさに「走れメロス」ですね。また、この訳の分からない、しかしなんとなく納得させられる言い回しは、太宰の文体を想起させるのも面白いところです。

 

「桜の森の満開の下」

坂口安吾の代表作ですね。この作品はちょっと怖いお話です。
山賊の男が満開の桜の下で出会った女性に一目惚れをして攫い、街で一緒に暮らし始めます。しかし女性は山賊に様々な人間の首を取ってきて欲しいと頼み、夜な夜なその首を並べます、耐えきれなくなった山賊はその女性を出会った場所へと返そうと再び桜の森に戻りますが、女性は桜とともに消え去り、桜吹雪の中山賊は取り残されるのでした。

 

森見版ではこれを切ない男女の変化に落とし込んでいました。物書きとして才能が開花する男と、それに伴い欲深くなる女。次第に二人の心はすれ違ってしまいます。
設定もさることながら、その前の「走れメロス」とは打って変わり文体も坂口安吾のような流れるような文体になっており、なんとも美しいです。

 

「百物語」

森鴎外の「百物語」は端的に言えば怪談話です。これは原作自体が結構現代に落とし込みやすいと思うので一番原作に近かったのではないかと思います。
森見版では今までのキャラクターが揃い、主人公が彼らに混ざるという感じでここまで読んできた読者としては後の彼らを知ってるだけに、彼らの違った一面を楽しむことができます。

 

 

2.炸裂する森見節

 

森見作品と言ったらなんと言ってもその独特の言い回し。この作品では書く作家に擬態しながらもしっかり森見登美彦の文を出していてより一層彼の言葉遊びが輝いていました。
以下には特にお気に入りのものをいくつか引用したいと思います。

 

彼は留年と休学を巧みに使いこなし、およそ不可能と言われたモラトリアム園長の歴史的記録へ果敢に挑んだ。

 

今の俺は、万人を軽蔑する中身のない傲慢が、ただ人の形を成しているだけのものだ。だからこそ俺は天狗なのだ。

 

そして彼女は、ただ一言「おしまい」と呟いて、俺を映画の中に取り残して去ったのだ。

 

「俺の親友が、そう簡単に約束を守ると思うなよ」

 

「やはり俺はここで約束を守るわけにはいかない。そんなつまらぬ羽目になっては芹名に申し訳ない。彼の期待に応えなければ!」

「走れ、芽野!」
彼は自分を叱咤した。駆け出した芽野はほぼ全裸体、ブリーフ一丁、首にはマフラーのごとくピンクのバスタオルをなびかせている。夕闇の底に輝くパチンコ屋の明かりに照らされるその勇姿は、まがうことなき変態だ。

 

「おまえもう、すでにブリーフ一枚じゃん!準備万端じゃん!踊ればいいじゃん!」

 

日本を飛び出して活躍できる大器ならばともかく、どう考えても器の小さい学生が外国でぐうたらしていても、問題の解決を先延ばしにしているにすぎない。


どれも森見作品を表す面白い言い回し、コミカルなテンポ、口にして楽しい、美しい響きを楽しむことができます。特にこの作品では作家の特徴に合わせた上で表現しているのが素晴らしいですね。

 

まとめ

かなり長くなってしまいましたが、この作品は最近読んだ中でもダントツで面白かったので是非手にとっていただけたら嬉しいです。

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ネムログ気になったのでライブドアブログからいくつか移行します。

趣味は読書(特に太宰治)、アニメ鑑賞(特に幾原作品)、京都観光。
京都には足繁く通っているので色んな情報を提供できたらと思います。

また、教育実習、学校教員(少しですが)を経験して思ったことも少し書けたら良いと思います。

現在はwebデザインを勉強中。
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