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【漫画】あだち充の最高傑作が『ラフ』なわけ

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あだち充と言えば『タッチ』や『みゆき』など数々の名作を生み出していますよね。中でも野球漫画は『タッチ』を代表に彼の作品の中でも大変人気が高く、「あだち充=野球漫画」と思う人も多いかと思います。

私も勿論『タッチ』含め『H2』や『クロスゲーム』、現在放送中の『MIX』といったあだち野球漫画は大好きなのですが、あだち作品の魅力が最も詰まった最高傑作は、本格水泳漫画である『ラフ』であると断言できます。

 

『ラフ』とは

『ラフ』は1987年から1989年まで『週刊少年サンデー』にて連載されていました。時期的には『タッチ』連載終了から約一年後になります。

世間にあだち充の名が広く知られた頃に描かれた期待の作品と言えますね。


あらすじは以下にウィキペディアから引用します。

 

埼玉県の私立栄泉高校水泳部に所属する大和圭介と二ノ宮亜美。2人の実家はともに和菓子屋で、祖父の代からライバル同士であった。最初は仲が良くない2人だったが、様々な出来事を経て、次第に惹かれ合っていく。亜美が兄のように慕う日本記録保持者の仲西弘樹と、圭介と亜美の三角関係は。

 

この作品のまず面白いところは、あだち作品にしては珍しく主人公とヒロインが犬猿の仲だということ。

殆どの作品では基本的に主人公とヒロインは幼馴染で仲が良いというところから始まるのですが、『ラフ』では犬猿の仲である二人が次第に距離を縮めていくその過程を楽しむことができるんですね。


○一話ごとの完成度が桁違い

『ラフ』はあまり目立った作品ではありませんが、あだちファンの中では非常に評価が高く、ベストに選ぶ人も少なくありません。

その理由の一つに「一話ごとの完成度が非常に高い」ことが挙げられると思います。

 

『ラフ』は個人競技である水泳を題材にしている故か、一人一人のキャラクターの感情を上手く競技にからめ、また独立させバランスよく描かれています。

野球を題材にするとどうしても登場キャラが多くなり一人一人を丁寧に取り上げることは難しくなりますし、独立させた恋愛だけの話などは時に間延び感が否めなくなってしまいます。しかし、『ラフ』ではそれを一切感じさせず競技と恋愛をバランスよく描き単体の話でも違和感なく読ませることに成功しているのです。


例えば「本命の男子」の巻。

冒頭では亜美とその友人が満開の桜の下を通って登校する姿が描かれています。
「好きな人とカップルで歩けたら最高だろうなあ」と言う友人に同意しながら仲良く歩く亜美。

 

 

その日部活に行くと顧問の先生が入院しているらしく、男女1名ずつ花束を持ってお見舞いに行くことになりました。

女子の代表は亜美、男子の代表は押し付けられて嫌々ながら引き受けることになった圭介に決まります。
二人で病院に向かい歩いている途中、圭介は病院に行くには遠回りだと気付きます。

しかし亜美はニコニコの笑顔で「ま、いいではないか」と一言返すだけでした。

 

 

「好きだ」とか赤面とか一切使わず恋愛描写をここまで上手く表現できるのは正直天才の所業としか言えません。

しかもこれは元々険悪だった二人だったからこそ、互いへの感情に気付き始めながらも言えない微妙な距離感が生きた演出となっており、読者がその距離感にモヤモヤするにも関わらず爽やかにこの話を締めています。


キャラに語らせない手法、独特な間、コマ割りなど、これぞあだち充の技術といったものを全て詰め込んだ素晴らしい回だと思います。


○主人公がかっこいい

あだち作品の主人公は基本的に才能があり顔もそこそこかっこよく努力も怠らず女の子にもさり気に優しくできるというかっこいい男の子が多いのですが、その中でも特に『ラフ』の圭介はかっこいいのではないのかと思います。

 

1.さりげない気遣い

例えば寮の伝統で二人で一日デートしなければならなかった時。
まだ出会ったばかりの二人はお互いに仲が悪く嫌々共に過ごすことになります。

 

二人で歩いているとたまたま中学生の時の圭介の元カノと出会ってしまいました。彼女に振られたと言う圭介をからかう亜美。

 


しかし、亜美がトイレによるとそこには元カノが。圭介に自分が振ったと言いふらされていると思っている彼女は亜美に言い訳をします。

 

圭介が彼女を傷つけないために自ら情けない男を演じているとも知らずに。

 

 

また、圭介は帰り道どちらが傘を持つかじゃんけんをしようと言う亜美にじゃんけんは苦手だから嫌だと言い張ります。

 

互いに文句を言いながら帰り道を歩く二人。

その途中、亜美はひよこが売られているのを見つけます。残金で飲み物を買おうとする圭介に亜美はひよこが欲しいとねだりますが、圭介は頑として譲りません。

 

しかし残念そうな顔をする亜美に気不味くなった圭介は、じゃんけんで勝負しようと持ちかけます。当然結果は圭介の負け。喜んでひよこを買う亜美とさっさと歩いて帰る圭介ですが、そこで亜美は先ほどの圭介の言葉を思い出すのです。

 

 

こういうさりげない気遣いができるところがかっこいいんですよね。

 

2.必要以上に話さない

圭介を敵対視する小柳香(亜美のライバル)はその美貌から不良グループにつき纏われてしまいます。そこをたまたま出会った圭介が助け、彼女は彼を見直しました。

 

しかし学校に戻った圭介は亜美にデパートの水着ショーに行っていたと思われ怒られてしまいます。それを見た香は亜美に対して顔の傷を気にしたらどうかと怒りました。しかし圭介はやはり多くを語らず、「水着ショーを見て転んだ」と言うだけでした。

 

亜美にも香にも気を遣い特に言い訳も弁明もしないところがかっこいいです。

 

 

 

 

3.男にもモテる

圭介はすごくいい奴なので男にもモテます。


大会決勝で圭介のライバルになる愛川は、圭介に勝つため手下たちを使い圭介を疲れさせる作戦を取ります。

 

手下がバイクの故障を装い、圭介に坂道を走らせますが、そんな裏事情を知らない圭介は決勝戦の時間が迫ってるにも関わらず、送ってもらったお礼にと家の和菓子を渡して笑顔でお礼を言います。

 

いつも罵詈雑言を浴びせられていた手下はそんな圭介の姿に感動し、試合では愛川より圭介を応援するのでした。


圭介は女子に限らず誰に対しても気を遣えるので、男子にも人気があるのです。

 

 

 


○距離の縮め方が自然

先述したように圭介と亜美は犬猿の仲から始まります。物語が進むに連れて次第にその距離が近づくのですが、その距離の縮め方が素晴らしい。

 

『タッチ』に限らず基本的にあだち作品では誰かの死や何か大きな出来事がきっかけになって二人の距離が縮まるということが多いですが、『ラフ』では取り上げて二人の距離を縮めるような出来事はありません。ただ共に過ごす時間が増え、相手を少しずつわかっていくうちに互いに惹かれ合うようになるのです。

 

その流れがあまりにも自然すぎるのでとてもリアルに、そして愛しく感じられるのです。

圭介と亜美は本当に互いの人間性に惹かれあったのだと思え、だからこそ中々結ばれない二人の想いに切なくなるのですね。

 

 

 

○他キャラもしっかり描かれている

『ラフ』は個人競技を扱っているため周囲の人間も少なく一人一人のキャラクターをちゃんと掘り下げて描かれているのも良かったです。


特に野球部の緒方の話はこれで一作品描けるのではというレベルで、途中は完全に野球漫画になっていました。

 

 

○伏線の張り方の上手さ

この作品は何でもない日常回などにかなり多くの伏線が張られており、それがしっかりと回収されるのも非常に評価が高い理由だと思います。


特に最終回につながる伏線。

最終回からはかなり前の回で、圭介が音楽プレイヤーを持っていること、そしてそのプレイヤーの調子が良くないことが描かれます。

これは後ほどにも紹介しますが最終回を彩る演出につながる伏線です。

 


また、校内マラソンで先生と誰が一位になるか賭けをすることになった亜美が即答で「大和くん」と答えるところ。

 

これは圭介と、圭介のライバルである仲西弘樹、どちらを選ぶかとなった亜美に、知り合いのおじいさんが訊いた時の亜美の回答の伏線と言えます。

 

 

 

○漫画史上最高の最終回

私は今まで読んだ中で『ラフ』以上の最終回を見たことありません。この最終回は漫画史に残ると言っても過言ではないくらい素晴らしいものでした。

 

先述したように圭介と仲西、どちらかの選択を迫られた亜美。仲西のことは昔から兄のように慕っており、周囲も皆んな勧めます。更に仲西には亜美が原因で怪我を負わせてしまったという負い目もあるので、圭介に心が惹かれていてもどうしようもできない状況でした。

 

しかし日本選手権の決勝レースで争うことになる二人を前に、亜美はとうとう決着をつけます。「勝った方」ではなく「勝ちそうな方」を選んだ亜美は、決勝前に既に答えを出したのです。しかし、それを二人に告げるシーンは描かれていません。

 

亜美はただ既に伝えたということだけを読者に示します。

 


一方、圭介は召集前にお気に入りのプレイヤーで音楽を聴いていましたが、調子が悪かったのか急に止まってしまいます。

 

それに気付いた仲西は音楽プレイヤーを気遣いながらも、亜美に先程あって話をしたことを圭介に伝えました。話の内容を聞きたいか尋ねる仲西ですが、圭介は「本当に俺が動揺するようなことなら仲西さんはわざわざそんなこと言わない」と断ります。

 


そしていよいよ決勝戦。合図で一斉にスタートします。

 

しかし、二人が泳ぐ姿は全く描かれません。代わりにスタート合図の衝撃で再び圭介の音楽プレイヤーが動き出し、圭介が前日に亜美に音楽を入れといてほしいと頼んだテープから亜美の声が流れます。

 

亜美の声は何でもない風景を背景に、圭介への想いを伝えたのでした。

 

 

 

 

この何とも言えない爽やかな演出と余韻は、独特の間や余白を巧みに使いこなすあだち充にしか描けないでしょう。

 

圭介と仲西の決着はついに描かれませんでしたが、その答えはもう既に読者は知っているので描く必要はないのです。描いたらそれは蛇足なのです。


これまでの物語の積み重ねの果てにこのラストを持ってくる力量は見事としか言えないですね。


○まとめ

かなり熱く語ってしまいましたがいかがでしたでしょうか。

どの作品が良いかは人によってもちろん異なりますが、私は上記のような観点で見ると間違いなくあだち充の最高傑作は『ラフ』であると言えるのではないかと思いました。

そのくらいあの作品は完成されています。


もし共感してくれる方がいてくれたらとても嬉しいです。
ここまでネタバレしといてなんですが、もしまだ読んでいない方はこれを機会に是非読んで頂きたいと思います。

 

お付き合いいただきありがとうございました。

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Comments from NEMber
Yonnsann
2019-05-29 01:47:30ID:121158

>>電波少年なすび::さん
ですね!
目立ちませんが本当に素晴らしい作品だと思います(^^)

電波少年なすび
2019-05-28 21:49:50ID:121058

ラフいいですよねー。
あだち先生の隠れた名作です

Yonnsann
2019-05-28 01:37:43ID:120894

>>雉太郎::さん
長さもちょうど良くて素晴らしいですよね。
あだち充の良さをわかるためにはお手頃な作品です^^

Yonnsann
2019-05-28 01:31:47ID:120892

>>('Θ')::さん
わかります!映画は解釈違いでした……。
長澤まさみともこみちは美しかったけど亜美ちゃんはそんな感じではないって思いながら観てました……。
あの告白も淡々と言うから良いのに。

雉太郎
2019-05-27 21:41:11ID:120766

ラフ最高ですよねぇ✧*。٩(ˊᗜˋ*)و✧*
単行本12巻にギュッと濃縮されてて。

あぁ、読みたくなったなぁ(′;ω;`)

('Θ')
2019-05-27 21:34:51ID:120758

実写映画では長澤まさみが二ノ宮亜美を演じていましたが、
最後の「大和圭介、応答せよ」が完全に間違っていたと思います。
かわいらしく挑発的な声で、長澤まさみの魅力が詰まったような声でしたが、
あのテープでの二ノ宮亜美は、きっと抑揚のない声で言ったはずだと思います。
ちょうど、「勝ちそうなほうよ」と言ったときのような。

僕は映画のセリフを聞いて、「ちっがーう! だれが演技つけたんだ、原作読んでたらそうならないだろ!」
と思いましたが、回りにラフを読んでいた知り合いが誰もいなかったので1人で悶々としていました。

Yonnsann
2019-05-27 17:55:22ID:120697

>>HAO::さん
あだち充さんの技術が一気に楽しめる素晴らしい作品です!
特にあだち作品は会話がとてもオシャレですよね(^^)

Yonnsann
2019-05-27 17:46:28ID:120696

>>7zoesan::さん
これを『タッチ』のすぐ後に描いたってのがまた震えますね!
古い作品ですからね^^;
私は古本屋で全巻購入しました(^^)

HAO
2019-05-27 14:00:26ID:120669

ラフは読んだことないんですけど、さすがあだち充さんっていう作品ですね!
伏線とか回収の仕方とか会話とかオシャレ!

7zoesan
2019-05-27 12:53:44ID:120663

ひさびさに鳥肌たったぁ!無論、大好きな作品!
いま手元にないのが悔やまれます!

NEMber who posted this article

ネムログ気になったのでライブドアブログからいくつか移行します。

趣味は読書(特に太宰治)、アニメ鑑賞(特に幾原作品)、京都観光。
京都には足繁く通っているので色んな情報を提供できたらと思います。

また、教育実習、学校教員(少しですが)を経験して思ったことも少し書けたら良いと思います。

現在はwebデザインを勉強中。
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