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「失敗の本質」の話

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2019-11-09 22:34:56
「失敗の本質」の話

失敗が取り返しのつかないことになることなどそうはありません。

しかし、失敗がなぜ起こってしまったのか、繰り返さないためには失敗を分析して、その問題点の本質に迫る必要があります。

わたしがいる医療現場においてもインシデントレポートやアクシデントレポートは必須であり、再発防止のための事例研究が進められています。

 

それはヒトの命を扱う現場において、同じことを繰り返すことは「取り返しのつかない自体」を招くことにつながるからです。

 

本日ご紹介する本、「失敗の本質、日本軍の組織論的研究」は第二次世界大戦の結果に大きな影響を及ぼしたと考えられる日本軍の失敗について、ノモンハン事件、ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、インパール作戦、レイテ海戦、沖縄戦の6つの作戦を取り上げ、分析し、組織における失敗がなぜ起こるのか、その失敗の本質に迫っています。

 

それぞれの作戦の内容とその詳細についてはぜひ本書を手にとって読んでいただきたいのですが、それぞれ状況の異なる6つの作戦において共通することは(1)複数の師団あるいは艦隊が参加した大規模作戦であり、陸軍の参謀本部、海軍の軍令部といった日本軍の作戦中枢が作戦に関与していた

(2)そのことにより作戦中枢と実施部隊との間に時間的、空間的距離があった(3)直接戦闘部隊が高度に機械化されていたが、それに加えて補給、情報通信、後方支援などが組み合わさった統合的近代戦であった(4)相手側の奇襲に対抗するというような突発的な作戦ではなく、日本軍の作戦計画があらかじめ策定され、それに基づいて戦うといった組織戦であったことです。

 

これらの作戦の共通性からわかることは個々の戦闘状況における指揮官の誤判断や個別の作戦の誤りを超えて、むしろそうした状況を生むに至った日本軍の組織上の特性すなわち戦略発想上の特性や組織的な欠陥により大きな注意を払うべきことを示唆しています。

 

それを前提に戦略上の失敗の要因を分析すると以下の8つの失敗にまとめることができます。

 

①あいまいな戦略目的

いかなる軍事上の作戦においても、そこには明確な戦略ないし作戦目的が存在しなければいけません。

これら6つの作戦はこの戦略の目的が曖昧であり、それが作戦実施部隊に浸透していなかったことが背景にありました。

目的が二重に重なっていたり、矛盾を含んでいたりすれば実際の現場はどちらの目的を果たすのが、そのためにどのように最善を尽くせるのか現場は迷うことになり、結果的には失敗につながる恐れがあります。

命令の意図を「察すれ」ではなく、きちんと明確に全員がわかるように言語化して浸透させることがとくに大きな組織において動くときには必要だと思います。

 

②短期決戦の戦略思考

日本軍の戦略思考は短期的性格が強く、日米戦自体、緒戦において勝利し、南方の資源地帯を確保して長期戦に持ち込めば米国は戦意を喪失し、その結果として講和が獲得できるというような路線を漠然と考えていました。

長期的な展望がなく、着地点が曖昧な戦略は随所に見ることができ、それは補給、兵糧の軽視、情報・諜報の軽視に具体的に表れています。

作戦開始以前に長期的な展望とその路線から外れたときの対処方法、落とし所について明確にしておくことで、無駄な時間と資源を活用することなく、作戦失敗における被害を最小限に食い止めることができるのです。

 

③主観的で「帰納的」な戦略策定ー空気の支配ー

大東亜戦争における戦略策定の方法を単純化すれば日本は帰納的であり、米国は演繹的と特徴づけることができます。演繹を既知の一般法則によって個別の問題を解くこと、帰納を経験した事実の中からある一般的な法則を見つけること定義するならば、本来、戦略策定は両方法の絶えざる循環が必要だといえます。

しかし、日本軍の戦略策定は一定の論理や原理に基づくと言うよりは多分に情緒や空気が支配する傾向があり、本来の意味での帰納法すらも持っていなかったといえます。

日本軍は精神力や駆け引き的運用の効果を過度に重視し、科学的検討に欠けているところが多かったといえます。

組織においても経験的な成功を科学的に検証せずに経験や精神を重視して舵を切ってしまうことが多くあります。

組織のTOPがそのようであれば、その「空気」によって合理性は飲み込まれ、大きな失敗の要因となってしまいます。

 

④進化のない戦略オプション

日本軍の戦略オプションは緒戦で一気に勝利をおさめる奇襲作戦であり、先制と集中攻撃に備えるように戦闘員の練度を精神性と相まって究極まで高めるために訓練時間が割かれていました。

しかしながら、そういった攻撃は米国の科学技術の向上によって作られた最新レーダーに捉えられ、すべて失敗に終わってしまうのです。

戦術の失敗は戦闘で補うことはできず、戦略の失敗は戦術で補うことはできません。そのため状況に合致した最適な戦略を戦略オプションの中から選択することが最も需要な課題となります。

組織においても時代の変化に合わせ、戦略を進化させておくこと、いくつかのオプションを用意しておき、現場が状況に応じて柔軟に対応できるように訓練しておくことが失敗を避けることになると思います。

この点についてはそのときの状況やお客の心情を鑑みずにマニュアル通りの対応で炎上する店員やお店のことが思い出されました。

 

⑤アンバランスな技術体系

大東亜戦争において日本軍の軍備や装備について各国に遅れをとっていたことは否めず、その開発も最新鋭の科学技術を軍事利用するというよりは、いまあるものをどのように使い、利用できるかといったことにも注力されていました。

また、各国が誰でも同様に使うことができるように装備を整えていく中、日本は神業的な練度を有する人しか使いこなせないような名人芸が要求されました。今あるものを極限まで研ぎ澄ますといった日本人の得意技が背景にあるように思いますし、日本人の美的感覚的にはこれが美しいのですが、戦闘になれば標準化と量産といった面で遅れをとることになります。

0から1を生み出す技術的イノベーションはいまでも日本人は苦手としているところかもしれません。

そういった日本人の技術力、精神性は嫌いではありせんが、組織運営においては技術や操作のアンバランスが生じないように標準化していくことが失敗の減らすことに繋がるのです。

 

⑥人的ネットワーク偏重の組織構造

日本軍は戦前において高度の官僚制を採用した最も合理的な組織であったにも関わらず、実体は組織の中に情緒性を混在させてインフォーマルな人的ネットワークが強力に機能するという特異な組織であったことを示しています。

士官学校時代の上下関係や出身校における先輩後輩の関係、これらの強固なネットワークにより形成された集団主義的思想により組織目標や目標達成手段の合理的、体系的な形成、選択よりも組織メンバー間の「間柄」に対する配慮が重視されました。

このような集団主義的原理はときに意思決定を遅らせ、重大な失敗を招くことになります。

組織形成の際は集団の階層や出身校が偏らないよう多様性を重視することが大切だと思います。

 

⑦属人的な組織の統合

近代的な大規模作戦を計画し、準備し、実施するためには、陸・海・空の兵力を統合して、その一貫性、整合性を確保することが求められますが、この統合能力の点においても米国と日本には大きな差がありました。

米国は大統領を筆頭にして陸・海・空の作戦統合本部が設置されたのに対して、日本軍は戦略思想の相違や機構上の分立、組織の思考・行動様式の違いなど根本的な対立が存在してその一致は容易には達成できなかったといいます。

大きなことを成し遂げるためにはそれぞれの強みを活かし、それぞれが協力して動くことが必要になります。

私はその原動力となるのは組織のTOPである経営者の統率力とその社が掲げる理念だと思います。

そうした一本の軸があることで普段バラバラに動いているチームもピンチには一致団結することができるのではないかと思います。

 

⑧学習の軽視

日本軍には失敗の蓄積・伝播を組織的に行うリーダーシップもシステムも欠如していました。このような学習機会の損失は同じミスを繰り返すことに繋がり、小さいなミスの繰り返しがやがて大きな失敗を招く結果に繋がりました。

作戦の失敗を「精神性」で片付けその現場の意見や論理を排除することで、自戦力の過大評価や相手の戦力に軽視に繋がりました。

こうした精神性は現代組織においても根強く残っており、日本は欧米諸国に比べミスすることを極端に怖れ、そして隠そうとする傾向にあると言われています。それには失敗によって個人の精神性を否定する傾向が残っているためとも考えることができます。

ミスから学ぶこと、そこに論理や原理をみつけ、改善を施すこと、ミスの報告が組織のためになるといった文化を形成し、浸透させていくことが、結果的にミスを減らし、大きな失敗を避けることになるのだと思います。

 

以上、大東亜戦争における作戦の失敗から、8つの失敗の要因についてまとめました。

日本においてはこれ以上にない悲惨な失敗です。

この現実に目を背け、日本の精神性だけに目を向けて失敗を語ることはできません。

なぜこのような失敗が起きたのか、組織としてどのように対処すべきだったのか、組織を束ねる経営者、リーダーにおいてこれらの失敗から学ぶところは多いと言えます。

この失敗において、多くの犠牲者が出たことは事実です。

今を生きる私たちにできることは、この失敗を教訓にして、同じ失敗を繰り返さないことであり、本書はそのための導きの書となると思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

紹介図書

戸部良一 寺本義也 鎌田伸一 杉之尾孝生 村井友秀 野中郁次郎 著

「失敗の本質 日本軍の組織論的研究」

 

 

Comment
7zoesan
7zoesan
2019-11-10 18:57:09ID:158581

>>ぺぺ α::さん
そうですよね、私のまわりも多いです。
インシデント、アクシデントレポートの数もやっと増えてきました。

7zoesan
7zoesan
2019-11-10 18:56:12ID:158580

>>matsuno::さん
ほんと根付いた「恥の文化」はなんとかしたいものです。
良い本でした!ぜひ一度ください!

ぺぺ α
ぺぺ α
2019-11-10 00:42:22ID:158440

読み入ってしまいました♫

失敗を早いうちに言ってくれると、次に迎えるんだけど、
僕の周囲も失敗を恥と考える人が多いです。
僕自身もそうかもしれないけど・・・

matsuno
matsuno
2019-11-09 23:47:39ID:158431

日本人は心理の代価行為が強い民族なのかもしれませんね。
良い本ですね。私も読んでみよう。

この記事を書いた人
北海道で理学療法士兼スポーツトレーナーとして活動しています。 これまでの臨床経験から得た気づきや学びに関すること、 日々の読書の備忘録など、徒然なるままに健康と幸福と自身の人生観についてアウトプットしていきたいと思います。 NEMはあまり関係ないことが多く、申し訳ありません!! ツイッターもはじめましたので、よかったらフォローお願いいたします。