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「地味だけど大切な土」の話

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7zoesan
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2019-11-20 22:14:21
「地味だけど大切な土」の話

青い空、白い雲、無数に瞬く星空、輝く海、彩豊かな自然・・・人類は好奇心の赴くまま、それらを追いかけて冒険を繰り返してきた。

そして一つ、また一つと謎を解き明かし、そしてそれは人類の進歩と科学の発展を促した。

そして、人類は今70億人まで増え、2050年前後には100億人に達すると言われている。

 

このような急激な人口爆発を支えているのは科学技術の進歩でも宇宙の謎でもない、私たちは上や遠くばかり見て歩いてきたが、私たちを支えているものはすぐ近くにある、私たちのすぐ下に、

そう、私たちを養っているのは「土」だ。

 

これほどまでに重要なのにその地味さゆえ「土」のことについて、私はほとんど知識と興味を持ち合わせない。自然は美しいと木々や植物、食物の写真はたくさん撮ってUPするのに、その土台となる土の写真は一切撮らないし、SNSで見かけることもない。

そう・・映えないから・・・

 

藤井 一至 著「土 地球最後のナゾ〜100億人を養う土壌を求めて〜」はそんな私たちの生活を支える土の研究から、100億人を支える肥沃な土壌を求めて世界中の土を掘っては埋めて、その土のポテンシャルと魅力を紹介してくれる。

農業博士の著者も認めるほど地味な研究対象である「土」だが、クスッと笑える著者の自虐的なユーモアと軽快な文章で気づかないうちに土の魅力に引き込まれている。

 

そもそも土とは何なのか。地球の土は、日本の土は、どうやって私たちの食卓を支えてくれているのか。100億人の生存は可能なのか。多様な土を基本から理解して、肥沃な土を見つけ出すしかない。その決意の先に、探検家まがいの日々が待ち受けていることまでは予見できなかった。

 

土の性質を決めるのは腐植と粘土の量、粘土鉱物の種類であり、粘土や腐植の水持ちの良さ(保水力)と養分を保持する能力で決まる。このような能力の差で土を分類すると世界の土は大雑把に12種類に分けられる。

生物の場合は昆虫は75万種、植物は25万種、キノコは7万種もある。

もう一度いう、土は12種類である。

土が地味たる所以であろう。

 

肥沃な土を「粘土と腐植に富み、窒素、リン、ミネラルなど栄養分に過不足なく、酸性でもアルカリ性でもない、排水性と通気性のよい土壌」とするのであれば、その12種類の中で最も肥沃な土はチェルノーゼムと言われる種類の黒土である。しかし、チェルノーゼムは乾燥地帯にしか分布せず水が足りないため、そこに暮らす人口はさほど多くない。やはり土は水とセットで考えなければならない。

そこで人口をたくさん扶養できる土を肥沃と定義すると、人口密度の高い地域を支えている土の世界一は黒ぼく土(火山灰土壌)という土で、この土は我が日本の面積の30%を占める、世界でも珍しい土である。チェルノーゼムやひび割れ粘土質土壌も黒いが、黒ぼく土に埋蔵される腐植はこれらの10倍であり、年中湿潤で温暖な日本生まれ、日本育ちの土は土の中の微生物も元気であり、世界で最も黒く、肥沃な土であるという。

日本に生まれるという幸運はこんなところにもあったのだ。

 

土の違いは食料生産力の差を生み出す。食料を供給できる土は12種類の土のうち半分しかなく、その存在は局在化している。

そのため、戦争と土を共に見れば、肥沃な土地を持つ国が侵略の憂き目にあっていることは歴史が物語っている。

 

穀物生産量は世界平均で1ヘクタールあたり3トンなので、一人あたりの穀物量は0.3トンになる。現代人の一人あたりの穀物消費量は0.3トンなので、現状では食料は不足していないが、農地面積の伸びは頭打ちとなっており、このまま人口が増え続ければ、壮絶な土地の奪い合いが始まることが予想される。

そのためには新たな農地開発が必要だが、肥沃ではない土地に無理をさせれば、どうなるかは歴史が証明している。

第2次世界大戦ではドイツの土壌が病原菌に侵され、ジャガイモが疫病にかかり、食糧難になった。

それが世界大戦をしかける契機となったとも言われている。

 

100億人もの人口を養うためには肥沃ではない土地を肥沃に変えるか、肥沃な土地を奪い合うかのどちらかであるが、世界で起きているのは過去も現在も前者であり、そのターゲットは土の王者チェルノーゼムである。

砂漠土ばかりで農地の欲しい産油国とエネルギーや化学肥料の欲しい農業国の利害は一致しており、農場にはインドや中国、産油国の買い手が殺到しているそうだ。

 

著者は研究を元に貧富な土壌の改良にも着手する。

詳細は本書を参考にしていただきたいが、著者のような現場主体の研究者が「土」の未来に明るい光を当てている。

 

本書を読み終えた後、本当に日本という国に生まれたことを幸運に思うだろう。

しかしながら「土」とその養分となる腐植、火山灰に恵まれた日本も人口が減少し、GDPが伸び悩む中、耕作放棄地は増加している。

著者の言葉を借りれば、現在失われようとしている農地土壌の能力を維持するということは、華やかではないが、潜在的に国際競争力の高い産業を持つことを可能にする。肥沃な土地は私たちの足元にあるのだ。

 

私たちの暮らしは本当に多くの「土」で支えられている。

あなたが今手にしているスマホもオキシソルという土を原料にしているし、あなたが今日のお昼に食べたカレーの香辛料も野菜もお肉も、お米も土がなければ生まれないのである。

 

そう思うと自然に足元を見て、土の恵みの有り難みを感じることができるのではないだろうか。

 

地味だけど深く、そしてとても大切な「土」の話。

同い年の研究者に敬意を表して、こちらの本を紹介する。

このような研究が報われる日が来ることを心から願っている。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

紹介図書:

藤井 一至 著「土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて」

 

読書イベント残り4日!!👇

 

Comment
やそ
やそ
2019-11-21 23:20:15ID:160446

>>7zoesan::さん
なんと!
また読んでみます!

7zoesan
7zoesan
2019-11-21 12:58:26ID:160400

>>やそ::さん
作者も富山の人のようですよ。
日本にいると気づきにくいですが、本当奇跡のような土地みたいですね。しかし、日本の国際競争の視点を見ていると、そんないいところが失われていくような感覚に陥ります。

7zoesan
7zoesan
2019-11-21 12:55:30ID:160399

>>ちくぽか::さん
奥が深く、結果が出るまで時間のかかる土との格闘。でも土に触れて、その恵みを目の当たりにできるのは素晴らしいですね。素敵な生き方を見習いたいです!

やそ
やそ
2019-11-21 07:26:10ID:160358

大地に根を張る生き方をしたいものです。

放っておけば山に還っていく日本のような土地って珍しいのですってね。

ちくぽか
ちくぽか
2019-11-20 23:02:59ID:160299

”自然農法”界隈では、とにかく土のポテンシャルを引き上げる事が基本になっています。いかに病気や虫に負けない作物が育つための、肥えた土を育てられるかが勝負どころです。
一農民として、興味深い本の紹介感謝します!

この記事を書いた人
北海道で理学療法士兼スポーツトレーナーとして活動しています。 これまでの臨床経験から得た気づきや学びに関すること、 日々の読書の備忘録など、徒然なるままに健康と幸福と自身の人生観についてアウトプットしていきたいと思います。 NEMはあまり関係ないことが多く、申し訳ありません!! ツイッターもはじめましたので、よかったらフォローお願いいたします。