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2020-04-30 05:53:16
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言葉というものは不思議なものだ。
人間と他の生物を隔てているのは、高度に発達した神経系を有し、自然言語でコミュニケーションを行う点である。
しかし、人のコミュニケーションの8割は非言語的だという。
だから言葉がなくてもコミュニケーションを取ることは可能だ。
しかし、伝える情報やニュアンスが複雑になればなるほど人はわかり合えなくなる。
扱う情報が多くなり同じ国に育っていても、同じ家族でもわかりあえなさは増すばかりに思う。
自身について考えてみても娘との会話についていけないときがある、まったく何を言っているのかわからず、お互いにヤキモキすることもしばしばだ。
人や文化が多様化し、異なる世界に住んでいるため、情報もより複雑になっている。
彼女には彼女の世界がそこには存在する。
世界には約7000もの言語が存在する。
それだけの世界がそこに存在し、そして70億もの世界がそこには拡がっている。
言葉は人のわかりあえなさをつなぐものだ。
ドミニク・チェン著書の「未来をつくる言葉、わかりあえなさをつなぐために」は台湾と日本に家族を持ち、フランス人として教育を受け多言語を操る著者が娘の言語獲得の過程と自身の経験を重ね合わせながらそれぞれの世界を繋ぎ、共感覚を得るための言語の役割や言語に関わる哲学的思考について綴ったエッセイである。
今日は本書の第一章「混じり合う言葉」を要約しながら、言語の身体化や世界認識に与える影響、言葉がつなぐコミュニケーションについて考えてみたいと思う。
混じり合う言葉
それぞれが持つ固有の「世界」や「領土」は生物学者フォン・ユクスキュルが発明した「環世界」という概念で説明される。環世界とはそれぞれの生物に立ち現れる固有の世界を意味する用語である。
生命にとっての身体は、世界を認識し、周囲の環境に働きかけるための始点であり、あらゆる行為を支える原初のコンテキストである。
地球には様々な生物がそれぞれの形で世界に存在するが生物の身体ごとに備わる知覚の様式に応じて、異なる世界が認識され、構成されている。
そして、他の生物と異なり言葉を使う人間には、生物学的な環世界の上に、時間と空間を抽象化して扱う言語的な間世界が重ね合わされており、表現には、その形式に固有の環世界が立ち現れる。
19世紀ドイツのロマン主義言語学の系譜にあるヴィルヘルム・フォン・フンボルトは「言語の多様性は記号や音声の多様性ではなく、世界認識の多様性えある」と表し、この言語観は言語学者のサピアとその学生であるウォーフに継承され、「特定の言語グループに属する人間にはその言語に固有の現実世界が立ち上がる」という言語的相対論「サピア=ウォーフ仮説」として知られるようになった。
しかし、この仮説は人類には進化の過程で獲得した「普遍文法」という生得的な言語構造が備わっているとする生成文法論の立場をとる言語学者からは批判され、その論争はいまだに決着はついていないとされる。
言語的相対論は、文化的慣習から生じる言語的な多様性に注目するが、生成文法論は、そのような表面上の差異よりも人類という生物種に備わった先天的な言語能力の構造こそが重要だとしている。
言語獲得と世界認識というコンテキストでは異なる2つの言語論だが、言語が現実世界の認識に影響を与えるという言語中心主義的な考え方は共通しているといえる。
言語相対論では、言語間の差異が多様な世界の認識方法を生む出すと考え、生成文法論では世界を認識するための文法があらゆる人間の認知構造に埋め込まれているとみなす。
いずれの立場においても言語的構造が身体的な知覚よりも優先して世界認識を担っているとされる。
自身の理学療法士という仕事を通じた得た経験からすれば「世界認識」に言語が他の知覚よりも大きな役割を示すといったことには賛成しかねる。
人間の身体知覚は驚くほど正確に世界を知覚し、認識し、適応している。
それは脳科学の分野でも明らかにされてきており、言語が世界の認識や適応に知覚よりも優位に働くということは考えにくく、むしろ本書でも著者によって指摘されているように言語そのものが、現実世界の組成に影響されながら発達したと考えるほうが自然な気がする。
しかしながら、生成文法論の進化的な側面から、言語獲得のための遺伝変容が自然淘汰と生き抜かせたとする立場には、生物進化という論理の筋は通っており、地球上のあわゆる地域に生息する人間に言語現象が顕現しているのは、そのような能力が人の身体に備わっているからと思うのは直感的に正しいようにわたしも思う。
それと同時に特定の言語にしか存在しない、固有の表現から生まれる感情や知覚の特異性が存在していても不思議ではなく、人の認知を研究する分野では、個体のなかで主観的に立ち現れる感覚意識体験のことをクオリアと呼ぶ。
これは自分の意識の中に生じる諸々の「この感じ」のことだが、たとえどんなに言葉を尽くしたとしても、完全な形で他者に伝えることはできない。
わたしたちは、互いのクオリアの最大公約数となる言葉に想いを託しながら、かろうじて会話を行っているのである。
つまりこれが「わかりあえなさ」の正体であり、そもそも人はそれぞれが違う感覚を通して世界を認識し、それぞれの環世界を生きている。このような僅かに異なる知覚の特異性、個別性がクオリアに微妙な違いを生み出しており、コミュニケーションを難しくしているのだと思う。
この知覚、感覚の違いは最近になってますます顕在化してきたと思う。
それはインターネットを介して異なる文化や見知らぬ他者と接触する機会が増えたことにより、生きる世界の多様性が増し、個々の環世界が拡がったためだろう。
そこには新たな関係性が紡がれる可能性と、異なる価値観を持つ人間同士が分断される危険性の両方が見られる。
SNS上には日々、感覚や価値観をを共にしたコミュニティの形成と他者への攻撃(ヘイト)で溢れている。
コミュニケーションのあり方と言語が果たす役割について本書では次のよう締めくくっている。
結局のところ世界を「わかりあえるもの」と「わかりあえないもの」で分けようとするところに無理が生じるのだ。そもそも、コミュニケーションとは、わかりあうためのものではなく、わかりあえなさを互いに受け止め、それでもなお共に在ることを受け容れるための技法である。
「完全な翻訳」などというものが不可能であるのと同じように、わたしたちは互いを完全にわかりあうことなどできない。それでも、わかりあえなさをつなぐことによって、その結び目から新しい意味や価値が湧き出てくる。
自分と等しく生命的なプロセスを生きる同輩が存在しているのだという当たり前のことを、理性だけではなく身体にも訴える「言語」が必要となる。
わかりあえなさをつなぐためには最大公約数の言葉をみつける必要がある。
最大公約数を作り出すのは互いの感覚の共有である。
つまりは経験や体験を通じた身体的な知覚や言葉が直接与える感覚を如何に共有できるかではないかと思う。
わかりやすい例でいえば夫婦間や恋人間の「あれ」「これ」「それ」がきちんとコンテキストに沿って理解できるかどうかである。
我が家においても妻の「あれさ〜わかるでしょ?」「あれ取って」などの会話が成立しなくなってきたときにはお互いの共感覚のズレを認識する。これは一緒にTVをみたり、映画を見たり、会話したり、デートしたりする時間が足りていないことを意味し、そうした時間を持つように心がけることでコミュニケーションを保つことができる。
私が娘の話を理解できないのは娘の生きる世界や見ている世界を理解せずに私の世界の言語で話してしまうせいであろう。親としてはこれから娘が生きていくであろう世界に近い場所の言語を用いて、それを知覚させることで今後、その世界とコミュニケーションを取りながら生きていくこと、生き抜くことを教えているつもりではあるが、彼女が今後そのような世界で生きると決まったわけではないし、おそらく私の今話している言語は彼女が今後生きる世界で通用するとは限らないだろう。
むしろ私が未来を生きていくためには彼女の世界を学ぶ必要すらあるかもしれない。
世代間のコミュニケーションの問題の本質、わかりあえなさはここにあるのと思う。
先の引用にあるように「わかりあえない」ことを前提に、それでもコミュニケーションを繋いでいくことで新しい価値や意味が生まれる。
そこに拡がる可能性は無限のようにも思える。
「わかりあえない」が前提に立てば、普段の生活においてもちょっと心が軽くなり生きやすくもなるだろう。私が日常に抱えるストレスやイライラの原因の大半はここにあるが、言葉だけではなく共感覚を結んでいくことが大切であるとわかれば解決方法も見つかりやすいし、職場におけるコミュニケーションの場のデザインにも役立つだろう。
本書との出会いは書評サイトにあった先の引用文に惹きつけられたからであったが、このタイミングでの出会いに非常に本書との縁を感じた。
こうした本に出会えることが読書をやめられない理由の一つである。
多くの人にとっても本書で綴られる言葉はスッと腑に落ち、自分の知覚を刺激し環世界を拡げるきっかけになるであろうと思う。
StayHomeのお供にぜひ本書を手に取っていただきたいと思う。
長文、最後までお読みいただきありがとうございました。
紹介図書⑬
ドミニク・チェン著書「未来をつくる言葉、わかりあえなさをつなぐために」
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Writer
北海道で理学療法士兼スポーツトレーナーとして活動しています。
これまでの臨床経験から得た気づきや学びに関すること、
日々の読書の備忘録など、徒然なるままに健康と幸福と自身の人生観についてアウトプットしていきたいと思います。
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